ヤズコルヤズカマク

ヤズコルヤズカマクとはケチュア語で「行って目にして帰ってきたもの。目撃者…火山の内部を見た者。翼をもつ赤い存在…自らの弱さを全て焼き払った…を意味する(「赤の自伝」より)

弁護士の先生への手紙 その1

お元気ですか。
新年のおたよりありがとうございます。
年末年始いかがお過ごしでしたか。
八王子医療刑務所の冬はとりあえず寒いです。笑ってしまうくらいの寒さです。
戦っています。罪と罰でなく寒さと戦っています。
耐えてます。覚せい剤の渇望でなく寒さに耐えてます。

心配していただいておりましたが、その後順調に回復しております。ひとつ気になる気になることとしては、痔になったことです。痔にはHIVとまた違った悲しみがあります。

地検で最後にお会いした時に先生がすすめてくださった「新世界より」を手に入れて読みました。面白かったです。寄生獣を思い出しました。あの時は小バカにしたような態度をとって申し訳ありませんでした。

HIVは順調に回復しています。うまくすれば一般刑務所に移送されそうです。
かたや薬物依存の方は…、まだまだドラッグドリームをみます。ある依存症の本に「覚せい剤はどうしても切ることのできない魅力的な悪女のようなもの」と表現していましたが、僕にとってはかんべんしてほしいストーカーでしかありません。打ち勝とうとするものではなく、然るべき機関に助けをもとめ、用心深く距離をおいて生きるまでです。
HIVアディクションも完治のない慢性疾患です。よく似ています。HIVは「ウイルスは持ったままだけど発症しないように」、アディクションは「使いたい気持ちはなくならないけれど手を出さないように」、どちらも回復し続ける姿勢に耐える胆力が求められます。完全な健康を目指すのでなく清濁あわせもつ度量を手に入れるための二年半にしたいです。

拘置所での二か月は感情が麻痺したような状態だったのであっという間に過ぎていきました、こちらに移ってからは一日がとてつもなく長い。時間が経つことだけに意識をおいて過ごす一日はなんと長いことか。しばらくは一日が一年のように感じました。最近になってようやく時間ではなく自分の行動に意識がフォーカスできるようになり、正常な感覚を取り戻しつつあります。それはそれで今度は当たり前の欲求や感情、例えば、食事が少ないとか、食事がまずい、とか食事が…食い物ネタばっかになりそうです(笑)。あと刑務官がむかつくとか(これ大事)、そういうのにとらわれてしまって、しんどかったりもします。でもこれも人生、ここは刑務所仕方ありません。そういうことも起こりうるのか。こういう事態になりえるのか。やっと理解し始めた今日この頃です。

今日の朝刊の一面に「検索で逮捕歴削除認めず」ってありました。同じように僕のやらかしたことは家族や関係者の記憶から消してしまうことはできません。僕ができることは、見捨てずに手助けしてもらえた感謝だけを一生覚えておくことだけです。

保釈中に相談助言いただいたマンションの件ですが、おかげさまで借り手がきまり一安心といったところです。最後は両親に全部やってもらうことになり、あの二人には感謝してもしきれません。ただその気持ちがうまく伝えることができず、コーナーポストに追い詰められた瀕死のボクサーがかろうじてへろへろのパンチを打ち返すような手紙のやりとりになっています。改善したいものです。

シンプルに考えて、シンプルに伝えたいと思っていながら、誰かに語りたくて誰かとつながりたくて、そんな欲求にあらがえず、手紙がどんどん長くなります。甘ったれの身の上話っぽい内容になってそうで読み返せません。
二年半後にはどんなことを手紙に書く自分になっているのでしょう。

お二人ともお忙しいとは思いますが、たまに空を見上げるのもいいもんですよ。八王子の冬の空はとても寒いですが、とても広いです。

 

f:id:cubu:20230822173758j:image